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名古屋地方裁判所 昭和48年(行ク)9号 決定

申立人 井立養魚株式会社 ほか三名

被申立人 愛知県知事

訴訟代理人 榎本恒男 鈴木武則 ほか九名

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

(当事者の主張)

本件申立の趣旨は、「被申立人が、申立外蒲郡市に対し、昭和四八年九月二九日、四八指令港第三-一〇号をもつてなした、蒲郡市形原町南新田、北新田地先水面面積一四六、六二一・八九平方メートルの公有水面の埋立を免許する旨の処分の効力は、本案判決の確定あるまでこれを停止する。申立費用は被申立人の負担とする。」というものであり、その理由の要旨は別紙(一)記載のとおりである。

これに対する被申立人の意見の要旨は別紙(二)記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

一  本件各疏明資料によれば、次の事実を一応認めることができる。

1  本件公有水面埋立免許処分は、申立外蒲郡市の申請にもとづき、被申立人が昭和四八年九月二九日、四八指令港第三-一〇号をもって蒲郡市形原町南新田、北新田地先水面面積一四万六六二一・八九平方メートルの公有水面(以下本件水面という)につき埋立を行なうことを免許する旨の処分である。

2  蒲郡市は、右水面の埋立地を都市再開発関連用地および市内交通緩和のためのバイパス建設敷地として利用することを予定している。

3  申立人井立養魚株式会社を除くその余の申立人ら(以下会社外申立人らという)は別紙申立書添付物件目録記載の土地(以下本件土地という)につき各九〇分の七の持分を有し、他の共有者とともに本件土地を申立人井立養魚株式会社(以下申立会社という)に賃貸しており、申立会社は右土地の大部分を占める池沼を利用し、鰻、ボラ、ススキ等を養殖して養魚業を営んでいる。

4  本件土地と公有水面(海面)とは護岸堤防によつて境界を画されており、右堤防の南西端付近には樋門が設置されており、右樋門の両わきから海面に向つて直角に石造りの防砂堤二本が突出している。

本件土地と本件公有水面とは最短距離で約七〇メートル離れているが、右防砂堤二本があるため、その各先端から本件公有水面までの距離は北側において約二五メートル、南側において約七・五メートルとなつている。

5  申立会社は現在潮の干満を利用して前記樋門から養魚場へ海水の取排水をなしている。

以上のとおり一応認められる。

二  被申立人は、本件処分と右処分にもとづき申立外蒲郡市が行なう事実行為としての埋立工事は別個独立のものであり、右埋立工事は行政事件訴訟法二五条二項の「処分」「処分の執行」「手続の続行」のいずれにもあたらず、又本件処分自体によつては申立人らは何らの損害をも被らないのであるから、右埋立工事により回復困難な損害を被ることを理由として本件処分の執行停止を求めることは失当であると主張する。

ところで、本件処分は申立外蒲郡市に対して本件水面埋立の権利を設定したにすぎないものであるから、本件処分のみによつては直ちに申立人らが損害を被るということはありえないものである。

しかし、行政処分によつて権利の設定を受けたものが当該処分にもとづき本来予定された方法でその権利を実現する場合、右権利実現行為は当該行政処分による行政目的達成のための手段たる意味を有するものであるから、右権利実現行為およびこれを根拠づける行政処分を一体とみて、公法的規制に服せしめるとともに、権利実現行為によつて第三者の権利利益を侵害し損害を与える場合は、右損害は当該行政処分による損害と解し得べきであり、右損害を受ける第三者は右行政処分の効力を争う適格を有するものと認めるのが相当である。

そして本件埋立工事は本件処分によつて設定された権利をその予定された方法で実現する行為であり、申立人らは前述のように右工事およびその埋立完成によつて権利を侵害されると主張しているのであるから、申立人らの本件申立は適法である。

三  本件処分によつて申立人らが受けるおそれのある損害について

1  本件埋立工事の施行に伴う損害

本件各疏明資料によると、以下の事実が一応認められる。

(1) 本件埋立工事は、仮護岸、しゆんせつ、間仕切、埋立、本護岸の各工事の順序で施行される計画である。

(2) 仮護岸工事は、まず埋立てるべき本件水面の外周に添つて長さ五メートルの松丸太を一メートル間隔で二列(列と列の間は約一〇メートル)海底に打込み、さらにこれを補強するために外海に面した列の丸太の周囲に捨石を積み上げ、右二列の丸太にそれぞれ厚さ三センチメートルの板を打ち付け、外海と埋立地とを区切る。

次に、土砂流出防止のために外海に面している板にはFPシートを、埋立地に面している板には帆布をそれぞれ張り付けるが、右FPシートは土砂流出防止にはすぐれた効果を発揮するという実験結果の報告もあり、各地の埋立工事現場で汚濁防止のために使用されている。

そして、右のようにして作られた巾一〇メートルの板囲いの溝の中に後記しゆんせつ工事によつて採取された海底土砂を投入し、その上に良質な山土を乗せて工事用基準面(朔望平均低潮面下六センチメートル)から約三メートルの高さまで盛土をして仮護岸を建設する。

(3) しゆんせつ工事は仮護岸の前面の海底からポンプ式しゆんせつ船により土砂を採取する方法で行ない、右採取された土砂は排砂管を通じて前記仮護岸の埋立用の土として使われる。

右しゆんせつが行なわれる海底土砂は細砂質であり、ヘドロ・重金属類が堆積しているとは認められない。

(4) 右仮護岸およびしゆんせつ工事は昭和四八年一二月頃着工し、翌四九年三月頃に終了したが、右工事の前後工事現場付近の海水の水質検査がなされたが、工事による海水汚濁を認めるには至らなかつた。

(5) 埋立工事は埋立区域を五区画に仕切つて、順次埋立てる方法が採用されたが、右方法によれば、埋立区画内の海水は土砂の投入により汚濁を生ずるが、まもなく土砂は沈澱し、ある程度浄化された海水は水抜き管を通つて次に埋立てられる区画へ放出される。最後の埋立区画の海水はある程度土砂で汚濁したまま直接外海へ排出されるが、申立会社の養魚業に対する影響を最少限度にするために、本件埋立地をはさんで前記樋門から最も遠い仮護岸から海中に排出されるよう考慮されていた。また、埋立用土砂は良質の山土が使用された。

(6) 本護岸は仮護岸の外周に添つて築かれ、工事箇所によつて細部の工法は異なるものの、いずれも矢板式工法が用いられた。

右方法は仮護岸の前面に鋼矢板を打込み、一部には基礎安定のため栗石を積み込み、工事用基準面から約二・五メートルの高さまでコンクリートを張つて築造する方法であり、山土は内側の埋立てのために用いられるだけであり、他のコンクリート、栗石からは海水の汚濁は生じない。

(7) 本件工事継続中である昭和五〇年三月頃、工事現場付近ではノリが生育しており、潮干狩りもできるような状態であつた。

以上のとおり一応認められる。

以上の各事実によれば、本件埋立工事に際し、起業者である蒲郡市は工事現場付近の海水汚濁防止のために十分な注意を払つているが、多少の汚濁を生じることは避けられないこと、右汚濁は土砂の混入によるものであることが認められる。そして、申立会社が右汚濁した海水を前記樋門を通じて取水する可能性を否定することはできないが、右汚濁海水によつて申立会社の養魚業に影響が及ぶことを疏明するに足りる資料はなく、また前記汚濁はその性質上一時期の経過によつて浄化されるものであるから、仮りに申立会社の養魚業に多少の影響があるとしても一時的なものであつて永続的なものであるとはとうてい認められないから、損害が生じたとしても、金銭賠償で償うことができる程度のものということができる。

従つて本件埋立工事による海水汚濁により申立会社に対し行政事件訴訟法二五条二項所定の回復困難な損害を生ずるということはできない。

2  本件埋立による海岸地形の変化による損害

(1) 申立人らは、本件埋立によつて樋門より突出した二本の防砂堤と埋立地との間隔が極端に狭くなるため、海水が滞留し、海の汚濁が顕著になりその結果魚類の養殖に適する海水の取水が全くできなくなり、申立会社の養魚業経営は不可能になると主張するが、疏明資料によれば、本件埋立地付近の海水の流れは潮の干満によるものが主たるものであるところ、前記樋門付近は潮の干満の差が激しく、大潮の時は完全に、小潮の時でも海底をわずかに海水がおおう程度に干上がること、および仮護岸工事が完了し海岸線の地形が埋立工事完成時とほぼ同じ形となつた後の昭和五〇年三月ころ、本件埋立地付近で海苔が採取され潮干狩も行なわれていたことが一応認められ、右事実によれば、本件埋立工事が完成しても海水が滞留し、海水の汚濁が進むとは認められず、そ

の他申立会社の養魚業に多大の影響を与える如き海水の変化、汚物の堆積等が生ずると認めるに足りる疏明はない。

なお、蒲郡市においては、将来、前記防砂堤のうち南側防砂堤を北側防砂堤と同程度に短かくすることを計画していることが認められる。

(2) さらに申立人らは、本件埋立により周辺の生態系が破壊され、シラス鰻の採捕が完全に不可能になると主張する。

本件埋立工事によりシラス鰻の生息地域に影響が生じないと断定することはできないけれども、疏明資料によれば、申立会社のシラス鰻の採捕量は、昭和四八年から同五〇年の各年度においてそれぞれ一・八キログラム、九・六キログラム、一〇・二キログラムであつて、埋立工事開始後にむしろ漸増していることがうかがわれ、埋立工事によりシラス鰻の採捕が困難になることの疏明はない。

右いずれの点においても、本件埋立によつて申立人らに回復困難な損害が生ずるものということはできない。

3  本件埋立地の利用に伴う損害

申立人らは、本件埋立地が利用されることにより人的物的交流が過密となり、さらに公害を発生する工場の建設される可能性もあり、自然破壊、環境破壊を招くと主張する。

しかし、本件埋立地に公害を発生する工場が建設されることの疏明はなく、埋立地がその本来の目的に従つて利用されるならば人的物的交流が現在よりも密になることは当然であるが、これによつて申立人らが具体的にいかなる損害を被るかについては十分な疏明がない。

4  本件埋立地付近の公有水面がさらに埋立てられることによる損害

申立人らは、本件埋立に続いて、蒲郡市鹿島町地先の公有水面が埋立てられようとしており、右埋立がなされれば前記樋門付近の海面が著しく汚染されると主張するが、右別個の公有水面の埋立免許処分ないし埋立工事は本件処分とは別個独立のものであり、右別個処分による損害は本件処分による損害ということができない。

5  以上、本件処分により申立会社に行政事件訴訟法二五条二項にいう回復の困難な損害を生じるものということはできない。

会社外申立人らは本件土地を申立会社に賃貸しているのであり、現在は賃料を得ているのみであるから、本件処分よつて何らかの損害を受けるとしてもそれは金銭上填補可能の損害であるから、行政事件訴訟法二五条二項にいう回復の困難な損害とはいえない。

四  以上のとおり、本件処分によつて申立人らに回復困難な損害を生ずるものということはできず、本件申立はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山田義光 窪田季夫 辻川昭)

別紙(一)

申立の理由

一 申立人井立養魚株式会社(以下申立会社という)は昭和四六年四月設立された法人で、養殖魚類の生産並に販売、魚類の養殖、研究、生産並に販売等を目的としている。

その余の各申立人らは、いずれも別紙物件目録記載の土地につき、九〇分の七の各持分を有し、申立外井立縫次外六名と共に、右土地を申立会社に賃貸しているものである。

被申立人は公有水面埋立法(以下法という)第二条にもとづき、公有水面埋立免許出願者より申請のある埋立免許出願にづき、免許を賦与する権限を有する行政庁である。

二 被申立人は、申立外蒲郡市に対し、昭和四八年九月二九日、申立の趣旨第一項記載の公有水面(以下本件公有水面という)について、埋立免許をなした。

三 本件埋立免許は、本件公有水面に関し権利を有する者がないことを前提としてなされたもので、法第四条第三項第一号に違背し、違法である。

(一) 申立会社は、別紙物件目録記載の土地を、その所有者である申立外井立縫次外六名及び申立人井立正勝外二名から昭和四六年四月頃賃借し、右池沼において鰻、ボラ、ススキ等の魚類の養殖生産を行なつているものである。

右土地の一一三番一の池沼の外側には面積約二七〇アールの護岸堤防が右五筆の土地を囲い込むように存在し、公有水面との境界を形成している。

右堤防の南西端附近には巾員五・五米の取排水樋門が設置されており、養魚池から海面への排水並に海面からの養魚池への取水はすべてこの樋門の開閉を通じて行なわれている。

右樋門の両脇から西方に向つて石造りの導流堤二本が海面に突出しており、北側のそれは四九米、南側のそれは六五米の長さを有する。(別紙図面参照)。

導流堤は潮の干満によつて運ばれる土砂等が樋門及びその近辺に到来するのを防除し、且つ流水を容易ならしめるための施設で、樋門の取排水機能を能率的かつ円滑的に行なわしめるものである。

(二) 本件五筆の池沼は、明治二四年頃幡豆郡西尾村の住人申立外浅井真一が護岸堤防を建築して造成したところから、通称浅井新田と呼ばれてきた。右浅井真一は明治二七年四月二七日申立外今泉新衛に対し浅井新田を譲渡、次いで同三〇年七月一九日同今泉新衛は同河合杏平に譲渡、更に翌三一年二月一六日同河合は申立外鹿島製塩合資会社に譲渡した。同鹿島製塩合資会社はこの池沼を利用して海水から塩を採取し、塩田として使用していた。明治四二年第一次塩田整理に伴い、製塩業は廃止されたため、本件池沼は同年七月二九日申立外東海養魚株式会社に譲渡され、以降申立外東海養魚株式会社は池沼を養魚池として昭和一五年頃まで継続して利用していた。

同年五月二七日申立外井立縫次は本件池沼を同東海養魚株式会社より売買により取得し、昭和一九年頃まで同人が鰻、ボラ等の養殖業を営んでいたが、昭和一九年以降は営業を変更して製塩業を自ら営むと同時に、本件池沼のうち約一町歩を申立外愛知化学株式会社に賃貸し、同会社もまた製塩業を営業していた。昭和二八年右二者の製塩業は廃止され、井立縫次の子供申立外井立正勝が養魚業の営業を開始し、以降昭和四六年まで営業を継続したが、申立会社の設立に伴い右営業は申立会社に承継された。この間昭和四二年一二月一八日申立外井立縫次は所有権の一部を申立人井立正勝外八名に贈与し、井立縫次の持分は九〇分の二七、その余の各所有者は持分各九〇分の七となつた。

(三) 以上のとおり本件池沼は明治二四年以来現在に至るまで実に八〇年以上もの長期間に亘り継続反復して養魚池又は塩田としての利用がなされてきた。前記取排水樋門も頭初から存在し、塩田に海水を導流させ、廃水を廃出し、養魚場の取排水を行なつてきたことはいうまでもない。そしてこの利用につき異議を唱える者はおらず、その継続的海面利用は社会的に承認されてきたもので、慣習法上の権利である。

右経過からすれば申立会社は法第五条第四号の「慣習により公有水面より引水を為し又は公有水面に排水を為す者」に該当することは明らかである。その余の各申立人らも、別紙物件目録記載の土地の所有権の取得にともない、前主の有した公有水面より海水を引水し、かつ公有水面に排水をなす権利を承継し、右土地を申立会社に賃貸することによつて、右取排水権を同会社に使用させている関係にあり、申立会社同様法第五条第四号の「慣習により公有水面より引水を為し、又は公有水面に排水を為す者」に該当する。

(四) 申立人らは本件公有水面に関し権利を有する者である。

本件公有水面の位置並に範囲は別紙図面のとおりである。これによつて明らかなように、取排水樋門に接続するサル堤防のうち、六五米の長さを有する堤防の先端から僅か四米離れたところが、本件公有水面の区域の東端にあたる。

このような場合、申立人らが本件公有水面から引水を為し、本件公有水面に排水を為す者にあたることは、当然のこととして肯定さるべきである。

特に海水の引水は潮流の動きや、潮の干満を利用して行なうものであつて、本件公有水面が全て埋立てられるときは、魚類の養殖に不可欠な汚染のない海水の引水は到底望み得なくなること必定である。そればかりでなく、本件護岸堤防と公有水面埋立区域との間にはきわめて狭少な海面を残すのみとなつて、海水は滞留し本件池沼から排水も沖へ流されないため、海の汚濁が顕著となることは避けられない。このような事態は、引水及び排水それ自体を不可能にするものであることから考えても、申立人らが本件公有水面に関し、引水・排水をなす者であると解するのは、まことに妥当である。

被告が本件免許に付した命令第一〇条に「埋立地に隣接する排水樋門については背後地の排水機能整備のため、別途指定する位置に付替えること」とあるが、このことは被告自らが本件埋立により取排水が困難となることを自認していることを示していると言わなければならない。

四 本件埋立免許処分に基づく埋立工事が実施されるときは、申立人らが回復困難な損害を蒙ることになり、これを避けるため本件処分の効力の停止を求める緊急の必要性がある。

(一) 申立会社は前記のとおり本件池沼を養魚場としてその営業の基本的設備として使用し、鰻、ボラ、ススキ等をここにおいて養殖している。これら魚類の養殖のため本件池沼と海面との境界に設置してある取排水樋門の開閉を適宜行うことによつて新鮮な海水を引水し、あるいは池沼内の水を海面に排出しており、この取排水の業務は養魚業にとつて不可欠なものとなつている。

またシラス鰻は申立会社が右樋門付近にて採捕し、これを養殖するのが常であつた。申立人井立正勝が養魚業を営んでいた昭和四一年から同四五年頃までは毎年七〇二八〇キログラムのシラス鰻の採捕が可能であつたが、申立人会社が設立された昭和四六年以降はその捕獲量は激減したとはいえ、なお一〇~一五キログラムは可能であつた。シラス鰻の激減は工場廃水、家庭廃水に基因する湾内の汚染が第一次的に指摘されるが、ここ蒲郡市にあつては市沿岸部の数次に及ぶ公有水面の埋立てが海洋汚染を加速度的に進行させたものに他ならない。また浅井新田の東北海面に設置された水面貯木場とこの南に隣接する木材整理場の新設は、海の汚濁を決定的なものとし、申立会社の魚類養殖に甚大な打撃を与えた。

(二) 本件埋立工事の進行により、限界にまできている海の汚染は、さらに進行することは確実であり、一担埋立工事が着工されるならば原状回復は絶望的である。

まず第一に埋立地の護岸堤防工事により海は荒され、海水の汚染を不可避的に発生せしめる。第二に、海底をしゆんせつすることにより埋立土をつくり、これをもつて埋立てするために、しゆんせつによる海の汚濁が生ずる。

第三に埋立により生態系は破壊され、生物は生存することができなくなる。シラス鰻の採捕が全く不可能となることは明らかである。

第四に、本件埋立は水路、道路、商業用地の造成にあるため、海上、並に陸上輸送の飛躍的増大がみられ、人並に物の交流がきわめて密になり、自然破壊、環境破壊を招集する。

特に右道路の新設による影響は申立人らにとつて深刻である。即ち国道二四七号線のバイパスは本件埋立地、導流堤、本件池沼を通つて蒲郡競艇場に向うものであるが、導流堤付近の海面は埋立てられるか、或は橋脚が造築されることになり、汚染は免れない。

第五に、前記三、(四)記載のとおり、潮流、潮の干満は埋立地によつてさえぎられ、海水の引水及び養魚池の排水は不可能となる。

第六に、本件埋立地の利用目的は厳しく制限されておらず、被告の許可さえあれば、他目的への転用ができる。したがつて汚廃水・産業廃棄物、ばい煙、粉じん等の公害を発生する公害企業の立地も充分に考えられるところであり、公害防止の確実な保障がない。

第七に、被告は本件免許に引きつづき、自らが埋立免許出願者となつている。蒲郡市鹿島町地先(本件池沼である浅井新田地先)の公有水面三二、二三〇・五平方米につき、間もなく埋立免許を為さんとしている。この埋立目的は前記水面貯木場、木材整理場のうち、木材整理場の一部海面を埋立て、木材揚場とすることにある。

右公有水面の埋立は、本件埋立と一体の関係にあり、この周辺一帯を木材集積地とし、これに隣接して物流センターを建設するとともに、市中心部との連絡交通を確保するため、道路を新設するものである。

この公有水面の埋立がなされるときは、本件公有水面の埋立と相まつて、近辺の海面、特に本件取排水樋門付近の海面は著るしく汚染され、申立会社の引水・排水は全く出来なくなる。

(三) 申立会社を除くその余の申立人らは、本件土地を申立会社に賃貸しあるいは申立会社の営業によりその生計を維持するもので、申立会社の営業が不可能となれば、その生活の手段を奪われる。

(四) 以上のとおり本件埋立工事の進行により、申立人らの引水・排水権は侵害をうけること甚だしく、これを原状に回復することは困難であつて、この損害を避けるためには緊急に、本件埋立工事の続行を停止するほかない。

よつて本申立に及ぶ。

物件目録、図面〈省略〉

別紙(二)

意見書

第一申立ての趣旨に対する答弁

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

との裁判を求める。

第二申立ての理由に対する答弁

一 第一項のうち、申立会社が昭和四六年四月設立された法人であつて、養殖魚類の生産並びに販売、魚類の養殖、研究、生産並びに販売等を目的としていること、その余の申立人ら三名が、別紙(一)添付物件目録記載の土地につき、九〇分の七の各持分を有していること、および、被申立人が公有水面埋立法第二条に基づき、公有水面埋立免許出願者より申請のある埋立免許出願につき、免許を与える権限を有する行政庁であることは、いずれも認めるが、申立会社を除くその余の申立人ら三名が、他の共有者と共に右物件目録記載の土地を申立会社に賃貸していることは知らない。なお、右土地は一〇名の共有にかかるものである。

二 第二項は認める。

三 第三項のうち

1 冒頭部分については、申立人らが本件公有水面に関し権利を有しないことを前提として本件埋立免許がなされたものであることは認めるが、その余は否認する。

2 (一)については、申立会社が物件目録記載の池沼の一部(その全部ではない。)において、魚類の養殖、生産を行なつていること、一一三番一の池沼の外側に面積約二七〇アールの護岸堤防が右五筆の土地を囲い込むように存在し、公有水面との境界を形成していること、右堤防の南西端付近に排水樋門(取排水樋門ではない。)が設置されており、養魚池から海面への排水がこの樋門の開閉を通じて行なわれていること、右樋門の両脇から西方に向つて石造り(正確にいえば石張り)の防砂堤二本が海面に突出していること、および、右防砂堤は潮の干満によつて運ばれる土砂等が本件樋門およびその近辺に到来するのを防除することによつて流水を容易ならしめるための施設であつて本件樋門の排水機能(取排水機能ではない。)を能率的かつ円滑的に行なわしめるものであることは、いずれも認めるが、申立会社が申立人ら主張の土地をその共有者から昭和四六年四月ごろ賃借したこと、および、申立会社の養殖生産している魚類が鰻、ボラ、ススキ等であることは、いずれも知らない。その余は全部否認する。本件池沼の一部はすでに埋立てられてその地上に建物が築造され、織布工場として使用されている。本件排水樋門の幅員は一・八メートルであり、本件防砂堤の長さは、北側のそれが四五・六五メートル、南側のそれが六一・二九メートルである。

3 (二)については、本件五筆の池沼が通称浅井新田と呼ばれていること、および、右土地が現在申立外井立縫次外九名の共有となつており、右井立縫次の持分が九〇分の二七その余の共有者らの持分が各九〇分の七であることは、いずれも認めるが、その余は全部知らない。

4 (三)については、本件池沼と本件樋門の過去における利用状況が申立人ら主張のとおりであつたこと、および右樋門の利用につき異議を唱える者がなかつたことは、いずれも知らないが、その余は全部否認する。現存している樋門は、昭和四二年に愛知県が全面的に改修したものであるから、それ以前に存在した樋門の利用状況に言及することは全く無意味である。

5 (四)については、本件公有水面の位置ならびに範囲はおおむね別紙(一)添付図面記載のとおりであること、および、被申立人が本件免許に付した命令第一〇条に「埋立地に隣接する排水樋門については背後地の排水機能整備のため、別途指定する位置に付替えること」とすることは、いずれも認めるが、その余は全部否認する。本件防砂堤の各先端から本件公有水面までの距離は、北側において約二五メートル、南側において約一〇メートルであつて、申立人らの主張するように、僅か四メートルではなく、別紙(一)添付図面においては、防砂堤が余りにも巨大に表示されているため、右図面は不正確である。さらに付言すれば蒲郡市は、近く南側防砂堤を北側防砂堤と同一以下の長さに改修する予定であるので、南側防砂堤の先端と本件公有水面との距離も約二五メートルとなるのである。また、命令書第一〇条において前記のように取り決められているのは、申立人らの主張するような理由によるものではなく、本件埋立事業の目的のなかには、国道二四七号線バイパス建設用地造成が含まれているところ、右バイパスの橋台が本件樋門付近に造築される予定であるので、本件樋門を付替える必要があるからである。

四 第四項のうち、

1 冒頭部分は否認する。

2 (一)については、申立会社が本件池沼の一部(その全部ではない。)を養魚場として使用していること、および本件樋門の開閉によつて右池沼内の水が海面に排出されていることは、いずれも認めるが、蒲郡市において、市沿岸部の数次に及ぶ公有水面の埋立てが海洋汚染を加速度的に進行させたこと、および、浅井新田の東北海面に設置された水面貯木場とその南に隣接する水面整理場の新設が海の汚濁を決定的なものとしたことは、いずれも否認する。その余は全部知らない。

3 (二)については、愛知県(被申立人ではない。)が埋立免許出願者となつている蒲郡市鹿島町地先(本件池沼である浅井新田地先)の公有水面三二、二三〇・五平方メートルについて現在運輸大臣に対し認可申請がなされていること、および右埋立目的が水面整理場の一部海面を埋立てて木材揚場とすることにあることは、いずれも認めるが、その余は全部否認する。申立人らの主張は、真実に反する事実関係を前堤とするものであるか、あるいは埋立工事等の施行とその完了後における状態について、いたずらに被害の発生を妄想しているものにすぎないのであつて、すべて失当であるが、その詳細は後に述べることとする。

4 (三)と(四)は全部否認する。

第三被申立人の主張

一 本件申立は不適法である。

1 公有水面埋立免許処分と右処分を受けることによつて公有水面埋立権を取得した者(起業者)が行う埋立工事は全く別個独立の行為であつて、何らの法的牽連性もない。従つて右埋立工事は行政事件訴訟法二五条二項にいう「処分」「処分の執行」「手続の続行」にあたらない。

2 本件申立において申立人らが主張するところは、申立外蒲郡市の施行する前記埋立工事により申立人らが回復困難な損害をこうむるというものであるから、右損害の発生源としては埋立工事自体が問題とされていることは明らかである。

右損害が本件処分自体により不可避的必然的にもたらされるものでないことは、本件処分の性格・内容からして当然のところである。

3 従つて本件申立は行政事件訴訟法二五条二項の要件を欠くものとして却下されるべきである。

二 本件は、行政事件訴訟法第二五条第三項の「本案について理由がないとみえるとき」に該当するものである。

1 公有水面埋立法(以下「法」という。)は、その第四条において、「埋立ニ関スル工事ノ施行区域内ニ於ケル公有水面ニ関シ権利ヲ有スル者アルトキ」の免許要件を定め、第五条において「前条ニ於テ公有水面ニ関シ権利ヲ有スル者ト称スルハ左ノ各号ノ一ニ該当スル者ヲ謂フ」として第一号から第四号まで掲げている。

これらの規定から明らかなように、法第四条の免許要件が問題とされるのは、あくまで「埋立ニ関スル工事ノ施行区域内ニ於ケル公有水面ニ関シ」法第五条の権利者が存在する場合であつて、それ以外の者-「埋立ニ関スル工事ノ施行区域」外「ニ於ケル公有水面ニ関」する権利者、法第五条以外の何らかの権利者-がたとえ存在していたとしても問題とはならないのである。(山口真弘・住田正二共著「公有水面埋立法」六六頁)。

2 申立人らは、別紙(一)添付の図面〈省略〉により、明らかなように、本件埋立免許にかかる「埋立ニ関スル工事ノ施行区域内ニ於ケル公有水面ニ関シ権利ヲ有スル者」には該当しないのである。すなわち、本件埋立免許にかかる埋立ては、申立人らが利用していると主張する樋門から約七〇米離れて護岸が設置されて行なわれるものであり、樋門の両側にある防砂堤の先端からの距離にしても北側のそれからは約二五米、南側のそれからは約一〇米も存在するのである。そしてかような状況の下において、申立人らを法第四条にいう公有水面に関する権利者とすることが到底不可能であることは明白である。

3 本件埋立免許は、その申請の審査にあたり、前記の如く申立人らは法第四条にいう権利者に該当しないが、その他に同条にいう権利者として漁業権を有する形原漁業協同組合が存在したので、これに関しては同意がなされている旨を確認し、適法に免許したものであつて、申立人らが主張するような違法はどこにも存在しないのである。

4 また、仮に申立人らが法第四条にいう権利者であるとしても、同条が免許の要件として権利者の同意を絶対に必要としているものでないことは明白である。

ところで本件埋立免許にかかる埋立ては、蒲郡市が都市再開発関連用地および市内交通緩和のためのバイパス建設用地の確保を目的として行うものであるが、これらの事業は、現在の蒲郡市の状況からみて緊急に着手する必要があるものである。そして、この埋立てによつて生ずる利益の程度は、埋立てによる申立人らの損害(実際には損害の発生は考えられないが)を著しく超過するものといわなければならない。

従つて、申立人らの同意を欠くことから直ちに本件埋立免許に取消すべき違法があるとの申立人らの主張は、この点からも失当であることが明らかである。

3 なお、申立人らは、本件埋立免許に付した命令第一〇条を掲げて本件埋立免許にかかる埋立により取排水が困難となる旨主張している。

しかし、当該埋立により取排水が困難となるか否かは別として、このことは、法第四条の免許要件とは全く関係のないことである。

法は、かようなことに関しては第一〇条を置いているが、同条は、免許の要件を規定するものではなく、免許後の埋立ての施行に伴う利害の調整として規定しているのである。

三 申立人らは、本件埋立工事の施行により海の汚染の進行が確実視されるとして、その具体例として惹起されることが予想される事態を列挙し、これは同人らにとつて回復困難な損害であり、これを避けるため本件免許処分の効力の停止を求める緊急の必要性があると述べている。

しかしながら、申立人らはその列挙する右事態について何らの疏明をなしていないのであるから、まず、この点において本件執行停止申立ては却下されるべきものであるが、さらに被申立人は次のとおり主張する。

1 申立人らは、四(二)第一、第二および第五において、本件埋立工事により海水汚染の事態が出来する旨述べているが、およそ海面の埋立工事において埋立用土石類により該埋立地周辺において海水に濁りが生ずることはあり得るところではあるが、それは恰かも池中に土塊を投げ入れたときに濁りが生ずるもののしばらくの後に従前の状態に戻るが如く、その汚濁状態はきわめて一時的のものであるとともに広大な海面の広がりからすればごく小範囲のものであることは容易に推測し得るところである。そして、かように土石類による一時的汚濁が発生するにしても、このことのみによつて魚類の生命に影響が及ぼされるものでないことは、降雨による出水時に上流地域の川底、河岸等の土石、山土等により数日間にわたり下流の水が汚濁されることがしばしばあるにかかわらず魚類はなお生存していることからしても容易に理解し得るところである。

そうではあつても、かかる汚濁の発生は極力避けるべきものであるので、被申立人は本件免許処分をなすにあたり、申立外蒲郡市に対し命令書を発し、右命令書において、本件埋立てにより海水汚染の事態が発生することのないよう十分な措置を講ずべき旨を命じているのであるが同市において施行される護岸堤防工事およびしゆんせつ工事は右命令の趣旨に則り科学的合理的な工法(すなわち、矢板護岸)により、かつ、護岸工事を先行させて施行されるものであつて、これによれば海水の汚染ないし海の汚濁は可及的に避けられるべきものである。

したがつて、本件埋立工事によつては申立人主張の損害自体全く発生する余地はないのであるが、仮に前述のごとく埋立用土石類により海水が一時的に濁るという事態が発生するとしてもこれがために申立会社養魚池への引水が不可能になるといつたことは後述のとおりあり得ないし、かつ、埋立工事の施行にあたりかく措置されるのであるから、申立人主張の右引水上の損害と本件埋立工事との間には相当因果関係が存しないものである。

すなわち本件埋立工事は、疎乙第一号証の図面記載の位置・範囲において施行されるものであるが、これにより明らかなとおり、該工事完了後において申立会社養魚池と外海との関係は途絶されることのないのはもとより、潮流は現在の排水樋門の位置までは勿論さらに内陸よりの境川および中川の河口にまで及び、潮の干満その他周辺海面の状況は従前と全く異ならないのであつて、申立人らの主張する引水による受益は従前どおり何らの支障なく保たれるのである。

申立会社養魚池の排水樋門は、現在、漂砂等の推積によりその機能が阻害されるのを防止するため防砂堤が二個所設置され排水樋門の機能保全がなされているのであるが、被申立人は本件免許処分をなすにあたり、前記境川、中川等からの水流の流量検査をなし、本件埋立工事予定地および前記樋門周辺の水理計算をなした結果、本件埋立工事完了後においても前記防砂堤により該排水樋門の機能は維持されることが確認されたものである。しかも被申立人は申立外蒲郡市に対し前記命令書において、排水樋門位置の付替えを命じており、これは近い将来同市において実施されるべきものであるが、これによつて排水樋門の機能は、従前の状態以上に十分発揮されることとなるのである。

したがつて、申立人らが四(二)第一、第二および第五において述べているところは理由がないというべきである。

2 申立人らは、四(二)第三において、本件埋立工事により該工事予定地周辺の生物の生態系が破壊され生物は生存し得ずシラス鰻の採捕は全く不可能となる旨主張する。

なるほど本件埋立工事が完了しそこに陸地が造成されることによりその部分において水棲生物が生存し得なくなることはもとより当然のところであるが、水棲生物、特にシラス鰻の生態は科学的に未知の部分が多いのであり、軽々に生態系が破壊されるとは断じ得ないものである。広大な海面の中の内陸に接属する一部が埋め立てられることによつて、かつて該埋立部分に棲息した生物が全部死滅するといつたことは客観性に乏しい非合理的な主張であるといわざるを得ず、この点に関する申立人の主張も理由がない。

また、申立人井立正勝は、シラス鰻採捕の許可を得ており、昭和四八年における採捕量は一・五キログラムであつた。しかしながら、右許可によつて同人が採捕をなし得る区域は三河湾沿岸一帯に及んでいるのであるが、三河湾沿岸一帯における昭和四八年の採捕量は一、七五七キログラムに達していることからしても、本件埋立工事により申立人井立正勝のシラス鰻採捕の機会が奪われるということは全くなく、当該工事予定地での採捕ができなくなることをもつて回復困難な損害であるとするのはこの点からしても失当である。

3 申立人らは、四(二)第四において、本件埋立工事完了後においては海陸における輸送が増大し、人および物の交流が密になつて、自然および環境の破壊が招来される旨主張するが、本件埋立工事完了後において該埋立地で各般の社会経済活動がなされることは勿論であるが、このことのみによつて直ちに自然および環境の破壊が招来されるものではなく、そのためには相当の原因が存するのであつて、かかる原因の発生を防止することによつて自然破壊等の事態の発生は未然に防止し得るのであるから、かかる申立人らの主張は暴論というほかはない。また、本件埋立工事予定地の一部には国道二四七号線バイパス道路が敷設されるが、これは前記の防砂堤付近で陸上に橋台を設けて海面をまたがせるものであつて、該橋台による海水汚染の事態が発生するということは、通常の橋梁下の海水におけると同様あり得ないことである。

4 申立人らは、四(二)第六において、本件埋立地が他目的に利用されるにつき厳しい制限が付せられていないので公害企業が立地することが十分考えられ公害防止の保障がないと主張する。

なるほど前記命令書には他目的利用につき具体的許可基準等は明記されていないが、これをもつて直ちに公害企業の立地等について厳しい制限が課せられていないと断じ得ないことはいうまでもないのであつて、およそ公害の発生については現行法令上も厳しい規制が設けられており、特に公害を発生するおそれのある企業については公害防止の観点から十分な監督がなされるものであることは当然である。のみならず、この点に関する申立人らの主張は一方的な将来の予見のもとになされているものであつて、かかる場合執行停止の要件たる緊急性すら存しないというべきである。

5 申立人らは、四(二)第七において、本件埋立工事予定地とは別の蒲郡市鹿島町地先の公有水面三二、二三〇・五平方メートルにつき間もなく免許がなされようとしているとの前提で、該公有水面の埋立工事と本件埋立工事とにより海水が汚染され申立会社養魚池の引水・排水は全くできなくなると主張する。

しかしながら、申立人らは本件免許処分の執行停止を求めるものであるところ、右公有水面の埋立免許処分と本件免許処分とは全く別個独立の行政処分であるのみならず、前者の処分はいまだなされていないのであるから、かような将来の不確定な事実を前提にするものである以上執行停止の要件たる緊急性を欠くものであるこというまでもない。

加えて、右免許処分が今後なされ埋立工事が施行されるとしても申立人ら主張のごとき損害発生の余地のないこと本件埋立工事におけると同様である。

以上述べたとおり、本件執行停止申立ては、その要件たる損害および相当因果関係が存在せず、かつ、緊急性も欠除するものであるので、すみやかに棄却されるべきものである。

四 本件は、行訴法第二五条第三項の「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に該当する。

1 本件埋立は、蒲郡市民の多年にわたる願望である住宅用地の確保と国道二四七号の交通渋滞の解消を実現しようとするものであつて、多大の公益性を有することは、多言を要しないところである。

2 そのうえ、蒲郡市は、本件埋立のため、金一七億五、四〇〇万円を超える資金を投入しているが、これらの資金は、民間金融機関からの借入金によつて賄われているので、支払わなければならない利息金(年八パーセントの割合)は、年間一億四、〇〇〇万円を超えているのである。本件埋立の竣工認可がなされ、蒲郡市が本件埋立地の分譲を完了すればその売得金によつて、右借入金を返済することはもちろん可能であるが、万一本件埋立免許の効力が停止された場合には、蒲郡市は本件埋立地の分譲が不可能となるので、右借入金返済の目途が立たないことはもちろん、利息の支払が、その財政を圧迫し、破産状態に陥ることが必至であり、地方自治法その他の法令によつて定められた事務の処理は不可能となるが、これは住民福祉の観点から到底黙視しえない大問題となろう。

3 前記のような諸事情を考えれば、本件埋立免許の効力を停止することは、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」場合に該当すると認めざるをえないのであり、したがつて、申立人らの本件申立ては、この点においても却下されるべきものである。

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